HIGASHIYA
伝統的美学と現代の絶妙な融合
取材/小須田領 撮影/張輿蘭
伝統の再構築
江戸時代に「茶屋」と言う旅人の憩いの場所があった。旅人たちは茶や酒を飲みながら、甘味を食し、その地の名産を味わい、風景を見て、他の旅人たちと歓談する。茶屋は昔の日本の旅文化の中で、重要な役割を果たすものだった。現在の日本はヨーロッパからやって来たCAFEと米国式のコーヒーショップで街は溢れ、古き良き時代の茶屋の文化は遠い過去の記憶と化したようだ。
中目黒の駅をでて、桜の木が並ぶ目黒川沿いに歩くこと10分あまり、HIGASHIYAは閑静な住宅街の中にあった。スタイリッシュでありながらも、伝統的な美意識を守っている店だ。コンセプトは、和菓子というものを、伝統を現代に適用させる題材として扱う、というものだ。HIGASHIYAの亭主、緒方慎一郎氏は建築デザイナーであり、Simplicityという会社で代表取締役を務める。HIGASHIYAは、Simplicityが手がけるニ軒目の店であり、初めての和菓子をテーマにした店である。1Fで和菓子を販売、2FはSABOというカフェのスタイルをとっている。
HIGASHIYAの和菓子は、基本的にシンプルな球状で、他店の一般的和菓子の装飾的な様子とは、一線を画している。1Fのスペースは、小型の現代美術美術館にも似た雰囲気を醸し、テーブルの上に置かれてある和菓子は、まるでミニマル・アートの芸術作品の一部のようだ。味は、甘さを抑えた品のあるもので、それぞれの季節の食材の持つ、本来の味わいを充分に引き出している。緒方氏は言う。「砂糖を控えめにすると、長く保存することができない。しかし、たとえ割に合わなくとも、品のある味を貫いていきたい。」
HIGASHIYAの2Fも、シンプルという美意識を基調にした、くつろげる空間となっているテーブルとカウンターのそれぞれにお湯を沸かす炉が設置され、客は大きな窓越しに外の風景を眺めながら、厳選された日本茶とともに和菓子を楽しむことができる。
カウンターの後ろの棚には、様々な酒の瓶と焼き物でできた瓶が並ぶ。素朴なその瓶に入っているのは、HIGASHIYA自家製の焼酎で、杏仁、青じそ、貴柚子、りんご、春ならば、ふきのとうや木の芽といった、季節ごとの様々な味が楽しめる。HIGASHIYAと一般的な和菓子店の最も異なるところは、酒と一緒に和菓子を楽しむというスタイルを提案しているところだ。緒方氏はこう言う。「昔の茶屋では、酒と一緒に甘味を楽しむというのは極めて一般的で、これもひとつの食文化だった。HIGASHIYAに来た人たちに、この伝統的で、且つ大人の楽しみ方を思う存分、味わってほしい。」
伝統的な美学を現代の視点で再構築する。HIGASHIYAが持つ「和」へのこだわり、結果的に時代の最先端のスタイルを体現していると言っていいだろう。「粋」という形容がまさにぴったりと言えるHIGASHIYA、春になったらここへ来て、満開の桜とともに、焼酎を飲みながら、こだわりの和菓子を味わってみる、これはまさに最高の大人の遊び方のひとつだ。
HIGASHIYA |
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東京都目黒区青葉台1-13-12
Tel:03-5428-1717 SABO(2F):03-5428-0240
Fax:03-5428-1708
営業時間:AM11:00〜PM10:00 SABO(2F):AM12:00〜AM3:00
火曜定休 |
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